第十六・小平円帰の婿入り


『小平物語』小平向右門尉正清 入道常慶  貞享3年 [1686]

※読みやすい様に管理人が箇条書き・()などを加えています。


第十六・小平式部左衛門入道円帰 婿入之事


 円帰 貳拾壹歳のとき 上伊那十二騎の内 有賀宮内之助殿え婿入仕る節

・牽馬の口取

・草り取

・鑓持

・中間

・忰者

・四五十騎

の者共迄 皆一様の帯に 金銀の薄を置 其身は下に茜染小袖 上に薄板にモミウラ 紋には満月を薄紅梅ニ染付 三尺五寸の太刀 小尻に車を付ける

其頃はゆる巾着は猿の皮にて縫いたるに さも大きなる瓢箪に銀箔を置て下るなり


円帰の長は六尺有り大力ニテ凡ソ難積


去る程 有賀殿 殊の外の支度にて 一門 其外

樋口将監一黨 是は馬場美濃守妾腹の聟也

柴清五郎 子息 太兵衛

赤羽殿

平出殿

漆戸左京殿 父子

其外 乗馬衆 諸歴々 義々々たる處え 異風躰にて小平殿被参 各興ヲ醸シ申スト也


宮内殿内室も此段を見給ひて 冷敷風流也

腰の廻りハ猿牽の如くなり 小平道三の一子なれは さそあらんと 各存る處に 如斯とて何も後に笑ハれしとなり 息女一人捨たると申たりしとなり


天正四年の事なり


有賀殿

・長男を源右衛門尉と云

・一女は太兵衛に嫁す

・二女は漆戸左右衛門尉に嫁す

・三女は我等が母なり


同源右衛門に女子三人あり

・柴佐左衛門(イ小)

・井澤八右衛門

・矢嶋彌吉

に嫁すなり


井澤八右衛門の子孫 當所伊奈郡大出といふ處にあり

矢嶋彌吉 子孫も 同郡南小河内といふ處にあり


此有賀殿も乗馬衆にて 有賀一統とて諏訪の末流なり

宮内殿跡も源右衛門にて絶


彌吉の子孫 當時 保科肥後守殿御内に居申候







管理人訳:
16.「小平式部左衛門入道円帰 婿入り
 

 円帰が21歳の時、「上伊那十二騎」のうちの「有賀宮内之助」殿へ婿に入る時の事。


・牽き馬の口取り

・草履取り

・鑓持ち(やりもち)

・中間(ちゅうげん)

悴者(かせもの)

・40から50の馬に乗った武士


以上の者たちが全員同じように、


帯に金銀の箔を押し、

下は茜染(あかねぞめ)小袖を、

上は、モミウラ(紅裏=紅絹=もみ を着物の裏地に使うこと)の薄板(うすい絹織物)に、満月の紋を薄紅梅(うすこうばい)色に染め付け、

三尺五寸(106.05cm)の太刀、その小尻(鞘の先端)には車をつけた。

その頃 流行った 猿の皮で作った巾着(きんちゃく)、

とても大きな瓢箪(ひょうたん)に銀箔を押して下げた。


円帰の太刀の長さは六尺(181.8cm)もあり、怪力の持ち主でもまったく積む事が難しい。


それほどに有賀殿の準備は格別であり、一門の他には、

・樋口将監 一党 これは「馬場美濃守」の妾の、聟である。

・柴清五郎、その子息、太兵衛

・赤羽 殿

・平出 殿

・漆戸左京 殿 父子


その他、騎馬衆の面々が堂々としているところへ、風変わりな風貌で小平殿がやってきて、みな興味をそそられ、面白く思った。


有賀宮内殿の御内室もこの様子をご覧になった。すさまじく意匠を凝らした、みやびな様子だった。腰のまわりなどは「猿引き」のようであった。小平道三の息子であれば、いかにもそうであろう、と皆思った。


(その時は)このように思ったが、後になって、皆に笑われた。有賀殿は娘を一人、捨てたようなものだと言うようになった。


1576年、天正4年のことである。


有賀宮内殿の

・長男を源右衛門尉と言う。

・長女は「柴太兵衛」に嫁いだ。

・二女は「漆戸左右衛門尉」に嫁いだ。

・三女はわれら(小平常慶=小平物語の著者)の母である。


有賀源右衛門には3人の娘がいた。それぞれ、

・「柴佐左衛門」

・「井澤八右衛門」

・「矢嶋彌吉」

に嫁いだ。


「井澤八右衛門」の子孫は伊奈郡の「大出」という所に今もいる。

「矢嶋彌吉」の子孫も伊奈郡の「南小河内」という所にいる。


この有賀殿も「乗馬衆」であり、「有賀一統」と言って、諏訪氏の末流である。宮内殿のあとは、源右衛門で絶えてしまった。


「矢嶋彌吉」の子孫は小平物語を執筆時(〜1686)、「保科肥後守」殿の家臣として近くに仕えている。






管理人考:


・中間=ちゅうげん=鎌倉時代から現れ、元々は夫役として徴収された者が奉公人に成ったのが始まりの様らしい。侍と小者の中間に位置する身分の武家奉公人である。


・忰者=悴者(かせもの)か。侍だが騎乗の許されない軽輩で、他の奉公人や足軽と同様に雇われ身分であった。傭兵。


戦国時代の身分の解説 ↓

http://www.geocities.jp/nikido69/infantrys/branch/branch02.htm


・薄=箔のことか=金箔・銀箔、または「すすき」のことか?

・薄板=唐織のうすいもの・絹織物の薄いもの

小尻=日本刀の鞘の先端の金具。日本刀のパーツの解説 ↓

https://ja.wikipedia.org/wiki/日本刀


・冷敷=すさまじき

風流=意匠を凝らした。みやびな。

・如斯=かくのごとく・かくのごとき=このような

・内室=身分の高い人の妻

・息女=身分のある人の娘・他人の娘を敬意を込めて。

・とて=といって、と思って。


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日光東照宮の猿牽組